政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
柄にもなく緊張したせいでやや不機嫌にも聞こえる声で迎え入れられた蓮見さんは、わからなそうに私をじっと見てから「ああ。ただいま」とだけ口にした。
玄関先で待っていたくせにこんな低いテンションで接してくる私への疑問は、痛いほどにわかった。でも蓮見さんが私に無関心なおかげで追究されずに済みホッとする。
仮面夫婦も悪いことばかりではないということと、家庭的を押し付けるハラスメントは案外難しいことを同時に思い知った瞬間だった。
追って、蓮見さんの顔を見てどこかホッとしている自分に気付く。
やっぱり家主不在という生活に多少の緊張感は生まれていたらしい。
「留守中、変わったことは?」
出張中はメッセージのみのやり取りだったため、声を聞くのは久しぶりだった。
一応、蓮見さんからもらったメッセージはすべて頭の中で彼の声で再生されていたけれど、実際にこうして聞くと、実物の方が滑らかで耳障りがいい。
低く艶のある声に懐かしさすら感じるのは、この半月の間、思いがけず蓮見さんのことを考える時間が多かったかもしれない。
でも、それも仕方ないのだ。
蓮見さんの部屋に住んでいるのだから、思考は自然とそちらに傾く。
やたらと彼と親しくなった気になってしまうのも同じ理由だ。