政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
私が天井を指すように指を上げているのを見た白崎は一瞬不思議そうにしたけれど、すぐに手の平まで伝っている血に気付いた。
「うわ、なに。あー、紙か」
「うん。でも大丈夫。続けて」
少し顔をしかめた白崎だったけれど、ひとつ息をついてから気を取り直したように笑顔を作り女性の方を向いた。
「こちら、資料になります。もしお時間があるようでしたら、少しだけでも見学していってみませんか?」
「いえ。申し訳ないのですが、私も仕事を抜けてきているので。また日を改めて主人と来ますね」
「わかりました。ああ、遅れましたが、私、営業の白崎といいます。なにか気になる点がありましたらお気軽に連絡ください」
最後に白崎が名刺を差し出す。
「岩渕です」と名乗った女性が私にも視線を向ける。
「よければ名刺いただけますか?」
「あ……はい。もちろんです。宮澤と申します」
モデルハウスの受付をしていて名刺を求められるのは初めてだったので、驚きながらも笑顔で対応する。
毎日、別にこれいらないんだけどな、と思いながらも名刺入れをベストの胸ポケットに入れていてよかった。
女性同士の方が電話するにもしやすいと考えたのかもしれないし……もしかしたら、ケガをさせた手前、一応ということかもしれない。
片手では難しかったので、白崎にお願いして名刺を渡してもらった。