政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「フルーツヨーグルトでいっか……うん。もういいやそれで。多めに作れば明日の朝もいけるし」
だいぶおざなりになりながら缶詰を開けて、中の桃やマンゴーを小さく切っていく。
そういえば、蓮見さんの好物も嫌いな物も知らないな、と思ったけれど別に知る必要もないので、すぐにまぁいいかと流した。
ハッキリした人だし嫌なら嫌で残すだろう。
それに私は相手のことを知れば知るだけほだされていく性格だ。
蓮見さん情報はなるべく取り入れない方がいい。
「和食、洋食、中華……どれが一番嫌がるかな。むしろ、統一しないでごちゃ混ぜが一番嫌かな。……でも、そんなメニュー私も嫌だな」
独り言がよくもれるのは、きっと疲れてストッパーが機能していないせいだ。
朝晩の料理もだけれど、いきなり知らない場所で知らない人と生活を始めたのだから、意識はしていないつもりでもそれなりに気は遣っているのだろう。
他人と暮らすのはなかなか大変だ。
「しっかりしなくちゃ」
いつからか口に染みついていた独り言を呟きながらIHコンロのスイッチを切ったところでハッとした。
「明日の朝のパン買い忘れた……」
うわぁ……と顔を両手で覆い、天井を仰ぐ。
パン屋によって夕飯用のパンを買ってきたのに、朝食用の食パンを買い忘れるという失態に気付き膝から崩れ落ちそうになった。