政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


彼の手には俺のスケジュールが書かれている手帳がある。

これだけデジタル化が進んでいても、手帳だけは紙媒体が譲れないらしい。タブレットやパソコンでスケジュールを確認する俺に合わせ、アプリでも管理してくれているのでとくに不満はない。

瀬野に午後の会議時間の変更について報告を受けていた時に着信があったため、話が途中だった。

「悪い」
「いえ。では、午後の会議は十六時からでお願いします。それと、〝盛岡ハウジング〟から太陽光発電について問い合わせがありましたが、対応はいかがされますか?」

太陽光については、今は俺に一任されているが、決定権は当初は会社の代表である父親にあった。

直に太陽光システムが完成するという情報を関係各所に流し、食いついてきたハウスメーカーの中から、条件のいいところと契約を結べばいいという考えには俺も賛成だった。

競争相手がいると相手に思わせた方が、こちらとしては有利にことが運ぶ。
けれど、〝レイドバッグホームズ〟と独占契約を結ぶ運びになった今、他のハウスメーカーからの電話対応は面倒でしかない。

熱心なのは結構だが、この〝盛岡ハウジング〟に関してはもう俺が耳にしただけでも六回は電話をかけてきている。

瀬野の報告によれば、あまりいい噂の聞かないハウスメーカーで、一年前に欠陥工事が見つかって以来、なんとか立て直そうと躍起になっているという話だ。

うちの社の太陽光のブランド力を信頼に使おうとしているのは明らかだった。


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