政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「〝既に他社と独占契約が済んでいる〟で通せばいい。それ以上の情報はやるな」
「かしこまりました」

手帳を閉じた瀬野の行動が、朝一で行われる報告はこれですべてだと伝える。
いつもならば瀬野はこのまま退室するのだが、今日は違った。

「ひとつよろしいでしょうか」と話しかけられる。
「さきほどのお電話は、〝レイドバッグホームズ〟との契約についてでしょうか」

視線を移すと、瀬野はいつも通り無表情でこちらを見ていた。

彼の表情に感情が乗ったところは、秘書として共に仕事をし始めてから二年、一度も見たことがないが、仕事中に喜怒哀楽を持ち出されても面倒なため、これくらいでちょうどいいと思っている。

「だったらなんだ」

聞き返すと、瀬野はかけているフレームレスの眼鏡を曲げた指の背で上げた。

「太陽光システムの契約については他のハウスメーカーから提示された条件も似たり寄ったりでした。なので、どうして〝レイドバッグホームズ〟と独占契約を結んだのかが勝手ながら腑に落ちずにいました」

同じような条件を提示しているのであれば、独占契約を結ばずとも、それぞれと契約書を交わせばいい。
いくら〝レイドバッグホームズ〟が大手とはいえ、年間に施工できる軒数には限度がある。ならば、他数とも契約をした方がうちとしては遥かに効率はいい。

瀬野の言いたいことが手に取るようにわかった。

「ですが、先日調べていた中で、納得がいきました。専務は、今回の契約の向こうまで見越して、〝レイドバッグホームズ〟を選ばれたんですね。あの会社が持っている床暖房設備関係の特許が目的で、さきほど電話でおっしゃっていた〝数ヵ月〟というのは、その期間内に特許を含め〝レイドバッグホームズ〟をわが社で買収する算段というわけですね」


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