政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「あるよ。気持ちがない、それに尽きる。私は、恋愛して結婚したいんだもん。冷め切った結婚生活なんて送りたくない。蓮見さんは、周りを黙らせるために結婚を決めただけで、私に気持ちなんてない。だから、このまま結婚したくない」
「それってなんか、蓮見さんさえ宮澤を好きになれば、宮澤自体は別にこのまま結婚してもいいって言ってるみたいに聞こえるな」

何気なく返された言葉に、一瞬声を失ってから慌てて口を開く。

「そんなわけ……っ」
「まぁ、でもそうか。宮澤は好きになれても、蓮見さんは結婚に気持ちは望んでいないんだもんな。望んでいないものを持たせるっていうのは簡単じゃないし、だったら他を見つけた方が賢いか」
「別に私だって好きになんて……」

言いかけたところで、白崎が「あ、そうだ」と遮る。
何度も言葉を遮られ不服に思い睨んだけれど、そんな私を気にするでもなく白崎が続ける。

「この間の〝岩渕さん〟って女性覚えてるか? 火曜日の昼頃、旦那が仕事だからってひとりでここに来た、白いワンピースに白い帽子の」
「ああ、うん。覚えてるよ」
「ご主人に挨拶できればと思って、アンケート用紙に記入してあった住所に行ったんだよ。で、記載通りのマンションはあったんだけど、〝岩渕さん〟なんて夫婦はどこにも住んでなかったんだよな。記入ミスかと思って電話も入れたけど、使われてないってアナウンスが流れただけだった」

白崎の話に、さっきまでの苛立ちが消える。


< 96 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop