愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
奪われた花嫁



どうしてわたしはこんな姿でここにいるのだろう。


丁寧に掃き清められ、ほこりひとつ見当たらない部屋。
真新しい香り漂う萌黄色の畳。

床の間には松竹梅鶴亀の掛け軸が飾られ、その下には純白の芍薬(しゃくやく)が緑鮮やかな姫南天と共に華を添えている。今朝女将自らが活けたものだ。

清らかな寿(ことほ)ぎの空気に満ちたこの部屋で、わたしは一人、逃げ出したくなるほどの重圧に耐えていた。

まさかこの部屋で、こんなふうにじっとしていることがあるなんて……。

ここはわたしにとって、用が終わればすぐに立ち去るべき場所。お客様を迎える準備やそのあとの片付け、もしくはお膳をお運びしたり御用をお伺いする時にしか足を踏み入れることはない。
万が一ぼうっとしていようものなら、女将の激しい叱責を喰らってしまうだろう。

それなのに、何の仕事もせずにただ黙って椅子に腰を下ろしている。

しかも身に着けているのは、藤鼠(ふじねず)のお仕着せではなく、純白の正絹(しょうけん)に鶴や束ね熨斗(のし)が銀糸で刺された豪奢な打掛。

白無垢と呼ばれる晴れやかな装束を身に纏ったわたしは、それとはほど遠いところにいた。

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