愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「寿々那」
呼ばれて振り向くと、温室の入り口に彼が立っていた。
「やっぱりここにいたな」
「祥さん」
ゆっくりとわたしのところまでやって来た彼が、手に持っていたブランケットをわたしの肩から掛けた。
「小雨が降り始めたせいで外が冷えてきた。体を冷やすといけないから着ておきなさい」
「はい……ありがとうございます」
わたしは大人しく頷くと、ブランケットを胸の前で合わせるように握った。その下で胸がうるさいくらいに高鳴っている。
彼は昼からずっと書斎にこもっていたのに、わたしが体を冷やすことを心配してわざわざ来てくれたのだ。仕事中でもわたしのことを気にかけてくれるのだと思ったら、嬉しくなってしまう。
妊娠が分かってからというもの、彼はこれまで以上にわたしのことを気にかけてくれるようになった気がする。
このサマーブランケットだってそう。梅雨入りしたせいで肌寒い日があるからと、祥さんがわざわざ買って来てくれたのだ。リネンのサラリとした触感が心地好く、エアコンが使われる真夏にも活躍することは間違いない。
「それにしても―――ずいぶん増えたな」
温室の中をぐるりと見渡してしみじみとそう言った祥さんに、わたしは「そうですね」と頷く。