愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「雨降りの温室」

「あっ…!」

「あの時と同じだな」

「そう…ですね……」

彼も同じ、わたしたちが出会った場所を思い浮かべたのだと思ったらじわりと喜びが込み上げる。

「さすがに今の体で櫛風沐雨(しっぷうもくう)はやめてくれよ」

「し、しませんよ……」

ひとのことを何だと思っているんだと、思わずふくれっ面になりながら上目遣いに睨むと、彼は「仔ダヌキが膨れたな」と言って笑う。

「もうっ…!また仔ダヌキって言った!!」

おかっぱ童顔のせいで『こけし』とは言われてきたけれど、『タヌキ』というのを面と向かって言われたことはない。

せめてもの反撃に、握りこぶしで叩くふりをしようと腕を振り上げた瞬間。

「うっ…!」

「寿々那っ!?」

口元を押さえてしゃがみ込んだわたしに、祥さんが慌てて手を差し伸べた。

「大丈夫か…!?」

「すみません……大丈夫です、ちょっと吐き気がしただけで……」

「とにかく家に戻って休もう」

「……はい」
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