愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
本来だったら、嫁のわたしが夫の欲求を満たすべきなのだ。

けれど、妊娠が安定期に入るまではそういうことは控えた方がいいと、買ってきた雑誌にも書いてあった。彼もそのことが分かっているから、触れて来ないのだと思っていた。

そういえばその雑誌には他にも色々なことが書いてあったっけ。『妊娠中の奥さんが相手をできないから、旦那さんは欲求不満のあまり……』とか。
それなのに『抱かれる』どころか触れられることも激減していた。今のキスだってずいぶん久しぶりだったし……。

もしも今、彼の前に素敵な女性が現れたら、彼はわたしのことなんてあっという間に見向きもしなくなるかもしれない。

もしかしたら、もうすでに―――。

急に胸の底から気持ち悪さが込み上げてきて、口元を押さえて「うっ、」とうめいた。

「寿々那っ!」と少し焦った声が聞こえてすぐ、大きな手が背中をさすってくれる。込み上げたものを無理やり飲み下すと、目尻に涙が滲んだ。

背中をさすられながらじっと吐き気が治まるのを待つうちに、わたしの胸の底から吐き気とは別のものが込み上げてきた。

この温かくて大きな手が、別の誰かに触れる。

そんなのは嫌。

彼のことを好きだと気が付いてから、甘酸っぱいときめきやドキドキはたくさん味わった。彼の気持ちを考えてせつなくなることも多いけれど、こんなふうに怒りに似た気持ちになったのは初めて。

自分の中にこんなどす黒い感情があるなんて―――。
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