愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「花嫁を略奪するなんてことは、大グループの社長にとっちゃスキャンダル以外のなにもんでもない。女将はきっとそれを盾にあなたを連れて戻ってくると思っていたのに―――」

一旦言葉を切った荒尾は、忌々しそうに顔を歪め言った。

「戻ってきた時に女将は私に言った。『申し訳ないけれど寿々那のことは諦めて』と」

「え……」

「さすがに社長は『いったいどういうことだ!』と女将に言いました。けれど女将の話の続きを聞くとすぐに静かになって……」

「お、お母さんはいったいなんて……」

「『香月社長は寿々那を貰う代わりに、森乃やを助けてやってもいい―――そう言われた』と」

「っ、」

「女将はそれを吞んだんです。お嬢さんを香月社長に渡すことと引き換えに、森乃やは再建の近道切符を手に入れた」

「そ、そんな……」

あの時、祥さんが母の署名の入った婚姻届を持って戻った裏に、そんなことがあったなんて―――。
祥さんからの――香月グループからの支援が受けられる。だから父も母も、婚儀直前に逃げ出したわたしを責めることなく、すんなりと結婚を許してくれたんだ……。

「寿々那さん」

物思いに耽っていると、いきなり名前を呼ばれハッと顔を上げる。目が合うと同時に荒尾が言った。

「私と一緒に帰りましょう。香月社長の力などなくとも、私たちが二人で力を合わせて森乃やを必ずや再建させる。そう言えばきっと、社長も女将も分かってくださいますよ」
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