愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「で、でも……、わたしはもう彼と籍を入れていて……わたしたちはれっきとした夫婦に、」

「香月社長がお嬢さんになんて言ったかは知りません。ですが、あちらにとって森乃やは、九州にKAGETSUを展開していく足掛かり。九州のあちこちに顔の利く老舗料亭を手中に収めれば、今後の運びが円滑になる。いわば『政略結婚』じゃないですか…!」

「政略結婚……」

「そうです、政略結婚です。実の親に売られて交わした愛のない政略結婚なんて、虚しいだけじゃないですか」

「っ、」

『愛のない政略結婚』

その言葉が胸にグサリと深く突き刺さった。

確かに祥さんは一度もわたしに愛を囁いたことはない。
それも『政略結婚』だと考えれば、そうだったのかと納得出来る。

わたしを送り出すときに母が言った『香月さんの嫁としてしっかり努めなさい』というセリフも、『森乃やのためにしっかり社長を繋ぎ止めておきなさい』ということだったのだ。

色々なことが一気に腑に落ちると同時に、ふっと体から力が抜けた。足元がふらついたわたしの腕を、荒尾が慌てて支える。

「寿々那さん……私はずっとあなたのことを見てきました。あなたも森乃やも大事にしますから、このまま一緒に帰りましょう」

うつむいて呆然としているわたしに、これでもかと言うほど優しげな声が言う。そして彼はわたしの肩に腕を回し、体を支えるようにしながらゆっくりと歩き出した。押されるようにわたしの足が動き出す。
頭の中に(もや)がかかったようにぼんやりとして、何も考えられない。
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