愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
飲みきって「ふうっ」とひと息つく。

「おいしかったぁ……」

「相当汗をかいているからな。水分を体が欲していたんだろう。昼間もきちんと水分を取ったのか?」

「あっ……」

そう言えば病院にいる時からほとんど飲み物を口にしていないことを思い出した。
家に居る時は意識してこまめに水分を取るようにしているのに、出先ではカバンにマグボトルが入っていることすら忘れていた。

「具合が悪いのは疲れと水分不足もあるのかもな」

言われてみれば少しだけ頭痛が治まってきた気がする。危うく脱水を起こすところだったのかもと背筋が寒くなった。

「すみません………」

シュンとしょげると、祥さんが「次からは気をつけたらいい」と言って頭を撫でてくれる。そして、空いたグラスをわたしの手の中から抜き取ると、今度こそカバンを差し出してきた。

「ありがとうございます」

お礼を言ってカバンの中を探る。けれど、目当てのものは見当たらない。

「あれ……おかしいな……」

「見つからないのか?」

エコー写真は薄いしそんなに大きなものではないけれど、いつも母子手帳に挟むことにしているからすぐに出てくると思ったのに。

「確か最後に見たのは……あっ!」

「どうした」

「いえ……その……」

荒尾が現れる直前にそれを見ていた。それを手に持ったまま荒尾と話し、最終的に彼の手を振り払ってタクシーに乗った。きっとその時に落としたのだ。

「ごめんなさい……祥さんに見せようと思っていたエコー写真を落としてしまいました」

「エコー写真……」

「はい。前の時よりもずいぶん大きくなっていて……祥さんにも見て頂きたかったんです……」
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