愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
愛されたいと願ってはいけない。
優しくされても勘違いはしてはいけない。
そう自分に言い聞かせながら、彼への想いを必死に鎮めてきた。
そうしないと、祥さんのささいな言葉や行動に否応なしに胸が高鳴って、気持ちが溢れ出しそうになるから。
ただでさえ不安定な体調で気持ちが沈みがちなのだ。そんな時に敢えて自分から傷つきに行かなくてもいい。
今は無事にこの子を産むことだけ考えよう。この子はわたしと祥さんの子なのだから。
エアコンの風があご下の毛先を軽く揺らす。リビングがいつもより爽やかなに感じるのは、今し方、家事代行の担当さんが丁寧に掃除をして行ってくれたおかげだろう。家事代行会社の担当さんは井上さんという五十代の女性。ベテランハウスキーパーらしく、今日も手際良くあっという間に家の中を綺麗にしてくれた。
その井上さんが業務を終えて出て行くのを見送ったあと、わたしはリビングでひと息つくことに。作ったばかりのレモンスカッシュを手に、ソファーに腰を下ろした。
ワンピースの裾を手で整え、グラスに口をつけようとしたところで、スマホが鳴った。画面に表示されたのは実家の母。
「お母さん……」
わたしは鳴っているスマホを手に取り、少しの間画面を注視したあと、意を決してそこに指を置いた。
「―――はい」