愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
モニターに映っていたのは、少し前に帰ったばかりの家事代行担当者、井上さんだった。

今日の業務はつつがなく終わったはずなのに、と不思議に思ったのも(つか)の間、『忘れ物をしてしまって……』という彼女の言葉に、すぐに玄関の施錠を解いた。

ややあって現れた井上さんは、書斎に自分のメガネを忘れたのだと言った。途中でそれを思い出して、慌てて取って返したらしい。

いつも家事代行のときは入り口の大きな門から車ごと敷地に入ってもらう。けれど井上さんは、忘れ物を取りに来ただけなので家の塀沿いに車を仮駐車させて、人だけが通れる小さな通用門の方から入って来たと言った。

それなら早く忘れ物を渡してあげなければ。そう思いってすぐに『取ってきますね』と言ったのだけど、身重のわたしに気を遣ってくれた井上さんは、『自分で取りに行きますよ』と言い、すばやく二階に上がっていった。

ほどなくしてメガネを手に戻ってきた井上さんは、きまりの悪そうな顔で『老眼鏡をすぐにアチコチに置いてしまう癖を何とかしないといけませんね』と言い、『それでは奥様。大変失礼いたしました』と深々と頭を下げてから帰って行った。

仕事は完璧なのに意外とそそっかしいところがあるのだなと思いながら、ベテランハウスキーパーを見送り、玄関の鍵を閉めたところで「うっ、」と吐き気が込み上げた。少し疲れているのかもしれない。

今夜は祥さんが出張から帰ってくる。彼を出迎えるためには、今のうちに少し休んでおいた方がいいかも。

妊娠してからというもの、疲れやすいせいかすぐに眠くなってしまう。帰りの遅い祥さんの帰宅を起きて待っていようと思ったら、昼寝をしておいた方がいい。
そう思ったわたしは、寝室で少し休むことにした。

今日は特に母からの電話で気持ちも疲れたのか頭が重たく、それに引きずられるように階段を上がる足も重たかった。
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