愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
実質は『就職』というより、『弟子入り』。

知識だけはそれなりに身に着けてきたつもりだったけれど、実際に働き出すと、それはやっぱりただの『知識』。相手は生き物なのだ、文字で読むのと同じなわけない。『百聞は一見に如かず』を痛感する毎日だった。

家族経営の【ミシェルハーブ農園】では、朝早くから一日中多種多様な仕事をこなさなければならない。ハーブの手入れはもとより、事務経理から営業まで。それこそ『なんでも』だ。

とはいえ、ゼミの先輩が言っていた通り、【ミシェルハーブ農園】はアットホームで居心地の良い場所で。
体つきと同じくどっしりとおおらかな社長(ボス)を始め、しっかり者の専務(おくさん)や農園の跡取りである長男夫婦も、社長夫婦の孫にあたるその子ども達も皆良い人たちばかり。わたしを温かく迎え受け入れてくれた。

それ以外にも、ロンドンの市内で働く次男さんや親戚、近所の人たちなどみんなが、日本から一人でやって来たわたしを気にかけてくれていることもあって、わたしの周りはいつもにぎやか。仕事を覚えるのに必死なこともあって、寂しがっている暇も落ち込んでいる暇もない。

充実した毎日は、光の速さで過ぎて行った。

それが三年前から今日まで――いや、昨日までのことだった。

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