愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
背筋がぞわりと粟立った。

身の危険を感じて、恐怖が怒りを上回る。
すぐ後ろにはハーブの鉢が階段状に並べられていて、これ以上は下がる場所はない。
荒尾を振り切って逃げるしかないけれど、わたしの二の腕を掴まえている手は、そう簡単には外れそうにない。

下手なことをして逆上されたらどうしよう。
わたしが少し怪我をするくらいならいい。だけどお腹の赤ちゃんに万が一のことがあったら―――。

もしものことを考えただけで恐ろしくて、お腹をかばうように腕を交差させるだけで精一杯。

(だれか……誰か来て……祥さん……)

心の中で一番会いたい人を呼んだ次の時。
不意に荒尾の視線がわたしから外れた。わたしの背後――温室の外を見てハッと息を呑んだあと、「チッ」と舌打ちをする。

(もしかして誰か来たの…!?)

一縷(いちる)の光を感じて振り返ろうとしたわたしに、荒尾がいきなり抱き着いてきた。

「やっ…!」

反射的に荒尾を突き放そうとしたけれど、強い力で押さえつけられたうえ、後ろから髪を鷲掴みにされる。

「いたっ!」と声を上げたその拍子に、口に何かがぶつかった。
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