愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
唇の合間からぬるりとした生温かいものが咥内に押し入ってきた。
それが荒尾の舌なのだと気付いた瞬間、強烈な嫌悪感で全身が粟立った。

「んん~んんん~~~っ!」

声にならない声を上げながら必死にもがく。

(助けて―――祥さん!)

心の底からそう叫んだ時、離れた場所からバタンと大きな音がした。

「寿々那っ…!」

(祥さん…!)

聞こえた声にまぶたに涙が盛り上がった。

祥さんの声がしてすぐ荒尾の口はわたしから離れた。けれど、わたしが大きく息を吸い込んだ瞬間、荒尾は再びわたしを自分の腕の中に拘束した。顔を目一杯胸に押しつけられて、「助けて」と叫びたいのに口を開くことすらままならない。

「寿々那っ!」

「香月社長。お早いお帰りで」

「寿々那を離せ、荒尾」

「今日は午後から森乃やへご来店のご予定とお伺いしておりましたが、いったいどうなさったんですか?」

「荒尾、白々しい言い方はよせ。おまえが森乃やから姿をくらましたと連絡を受けた。嫌な予感がして、森乃やへの訪問はキャンセルし急いで戻って来てみれば……荒尾、何のつもりか知らないが、今すぐ寿々那を返すんだ」

「返す…?それはこっちのセリフですね。この女はもともと俺のものだ」

この期に及んで何を―――と反論したいのに、荒尾の胸に顔をビッタリと押し付けられていて喋れない。

祥さんが「何をバカなことを」と口にすると、荒尾はふんっと鼻を鳴らし、呆れたように言った。
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