愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「バカなこと…?バカなのはあんたですよ、香月社長。まんまとこの女に騙されて」

「……どういうことだ」

「とぼけないでくださいよ。見たんでしょ?俺たちがヨロシクやってんのを。俺とこいつはそういう仲なんです」

(何を言い出すのっ…!?)

「旦那が出張中にこの家に男を連れ込んで楽しむ。そういう女なんですよ、森寿々那って女は」

「そういう、とは?」

(ちがう―――!)

荒尾の言葉を訊き返した祥さんに大声でそう言いたいのに、荒尾の力が強すぎて、身じろぎすら出来ない。

「本性は、家族に黙って自分勝手にいなくなるような冷たいヤツなのに、それをお嬢様ぶって隠して純真なふりをして、寄って来た男をたらしこむ―――とんでもない女なんです」

確かにわたしは、家族に黙って渡英した。そのことを冷淡だと罵られても仕方ないかもしれない。
けれど、男をたらしこんだことなんて一度もない。あの夜、祥さんに貰ってもらうまで処女だったのだ。
そのことを誰より知っているのは祥さん自身。だから荒尾のセリフがでたらめだということを、彼が見抜けないわけない。

そう考える一方で―――。

「香月社長。あんたもやっぱり男だな。まんまと騙されて……。いったいどこで知り合ったかは知りませんがね、この女が上手いこと取り入ったってことは分かってますって。いつものことなんですから。体を使って男をたらしこむのはこの女の常套手段。男は据え膳を喰うイキモノだってこと、ちゃんと分かってるんですよ、この女は」

荒尾は口から出まかせを言っていると頭では分かっているのに、まるであの夜のことをすべて知っているようにも聞こえてしまう。
「ちがう!」と叫びたいのに、喉の奥が張り付いたみたいに声が出ない。
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