愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
荒尾の問いかけに祥さんは何も返さない。

「祥さん……」

「お嬢さんは実の親に売られたんです。俺の子と一緒にね」

「なっ、……ちがうっ!この子は本当に祥さんの、」

「耳を貸しちゃダメですよ、社長。可哀そうなお嬢様のフリをするのが得意なんですから、この女は。それに口では何とでも言える」

母がお腹の子のことを祥さんに何と言ったかは分からない。
けれど百パーセント違うのは、お腹の子が荒尾との子どもだということ。

ロンドンから帰国して、婚礼までの一週間。荒尾とそんな関係になったことなんて一度もない。わたしと荒尾はまったくの他人同士。唯一あるとしたら、ついさっきのキスだけ。

思い出した途端、心の底から嫌悪感が溢れ出し、嘔吐(えず)きそうになる。強い吐き気に顔を歪ませた。

「寿々那、……寿々那を離せ、荒尾」

「そんなにこの女がいいのかよ。あんたほどの会社の社長なら、もっといい女でもより取り見取りだろうに……そんなにいいって言うんならくれてやってもいい。だけどその代わりに俺を訴えるのをやめるよう、あんたから森乃やに言ってくれ。ああ、ついでに一千万もあんたから返しておいてくれよ」

どの口がそんなことを…!

支離滅裂でなんの根拠もない作り話をした上に、横領の罪も解雇もナシにしようとするだなんて―――。
< 161 / 225 >

この作品をシェア

pagetop