愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
荒尾の思考は尋常じゃない。

とにかく何とかして荒尾の拘束から逃れなければ、と強く思った。

きっと祥さんは、身重のわたしを気遣って荒尾を強引に捕まえることが出来ないのだ。
仮に祥さんが荒尾の話を信じたとして、わたしのお腹の子が自分の子ではないかもと疑っているとしても、荒尾の罪は変わらない。横領罪だけでなく、今は不法侵入だ。

わたしさえ捕まっていなければ、祥さんは荒尾の言いなりになんてならないのに。

こんな時まで彼の足枷でしかない自分が歯がゆくてたまらない。
ギリギリと奥歯を食いしばってると、祥さんの「分かった」という声が耳に届いた。

「おまえの言う通りにしよう。だから今すぐ寿々那を離せ」

「口だけじゃなんとでも言える…!今すぐ森乃やに電話しろっ…!」

「……分かった」

荒尾の腕の中で祥さんに背を向けているわたしには、彼が何をしているか見えない。
けれど、かすかな衣擦れの音から、彼がスーツからスマホを取り出そうとしているのだと思った。

(荒尾の思い通りになんて…絶対にさせたくないっ…!)

わたしは首を捻り必死に祥さんの方に振り返ってから、声を張り上げた。

「祥さぁんっ!」

視界の端でほんの一瞬だけ祥さんと目が合った。

次の瞬間わたしは前を向いて思いきり伸びあがり、荒尾の耳に噛みついた。

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