愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「すず、」
「ごめんなさいっ…!」

祥さんの声を遮るように叫んだ。あれだけ『気をつけろ』『大事にしろ』と言われていたのに、どうしてこんなことに……。

「もしかして、あの時……」

あの時、わたしがハーブを噛みしめたせいかもしれない。
自分でもよく覚えていない。反射的にむしり取った葉が何枚だったかとか、何のハーブだったかも。

ただ、口の中に残る荒尾の感触を無くしたい一心で。
だけどもし……、もしあれが『禁忌ハーブ』だとしたら―――。

「わたしが……わたしが殺したの……?」

「寿々那、落ち着け。それはちが、」

「いやぁっ…!」

伸びてきた祥さんの手を振り払って、両手で顔を覆った。

わたしはいったいなんてことをしたんだろう。
ひとよりも詳しいはずのハーブ。それなのに、そのハーブでお腹の子の命を奪ってしまったの…!?
祥さんだって、あんなに我が子の誕生を楽しみにしていたのに。
性別はまだ分からなかったけれど、もしかしたら香月の後継者になるはずだったかもしれない子で。
だから祥さんはわたしを大事にしてくれて。
そうじゃなければ、早々に離婚しようとしていたはずだった。
わたしは赤ちゃんと祥さんになんて謝ったらいいの…?どう償えば―――。

瞬く間に頭の中がぐちゃぐちゃになった。

あまりの大きな悲しみと自責の念で、胸が苦しくて吐き気すら込み上げてくる。

「寿々那、落ち着いて俺の説明を、」

わたしは「いやいや」をするように頭を振った。

わたしにはもう、あなたに優しくされる資格なんてない。
それどころか、隣にいる資格すらも―――。

「―――別れてください」

「は、」

「わたしと……離婚してください、しょ……香月社長」
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