愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
両目を見開いて一瞬絶句した祥さんが口を開くのを妨げるように、わたしは一気に言葉を続けた。

「わたしにはもうあなたのそばにいる資格なんてない。森乃やのことはこれから家族で一生懸命働いて恩を返します。でも……でも、あ…赤ちゃんがいなければ、もうこれ以上わたしと一緒にいる必要なんてあなたにはないもの。だって……どうせ愛し合って結婚したわけじゃないんだからっ!」

「バカを言うなっ!」

大きな声で一喝されて、わたしはビクリと体を跳ねさせた。はずみで涙の粒がぼたぼたと枕に音を立てて落ちる。

「おまえが、寿々那が倒れて俺がどんなに心配したと思う…!」

「だってそれはっ……お腹の赤ちゃんを、」

「もちろんお腹の子のことも心配だった。だけどそれよりも、おまえがこのまま目覚めなかったら……そう考えただけで怖くてたまらなかった。もし……もしも寿々那とお腹の子のどちらかの命を選択しろと迫られたら、間違いなく寿々那…おまえの命を取っていた」

「うそ……」

「嘘じゃない。―――お腹の子を容易く見捨てようとした俺は父親失格だ……こんな俺とはもう夫婦じゃいられない……おまえがそう思うのも無理はない……」

「父親失格だなんて、そんなこと……そんなことありませんっ…!」

彼が『父親失格』だというのなら、わたしはいったいどうなるのだろう。『母親失格』なんて言葉じゃ片付けられない。

そう思いながら唇を噛みしめていると、祥さんが言った。

「寿々那……こんな俺でもかまわないと言うなら、これからも俺に、おまえたちを守らせてほしい」

「これからもわたしたちを……」

祥さんの言葉を復唱するように呟いたあと、すぐに「えっ!」と驚いた。
すると祥さんは布団の真ん中にそっと手を置いた。それはちょうど、わたしのお腹のあたりで―――。

ゆっくりと優しく。
それでいて、この上なく愛おしそうに。

彼はわたしのお腹を撫でた。
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