愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
[2]

「寿々那っ…!」

「おっ、お母さん!?」

病室に飛び込んで来た母は、そのまま一気にわたしのところまで駆け寄ってきた。

「寿々那、具合は!?怪我はないの!?お腹の赤ちゃんは?無事なのよね!?」

明らかに血相を変えた母に圧倒されてしまう。すると横から祥さんが母の問いに答えた。

「お義母さん、落ち着いてください。寿々那さんもお腹の子も無事です」

母はその言葉を聞くと、ホッと安堵の息を吐き出した。

「お母さん……どうしてここに?森乃やは……」

自分が一体どれくらい眠っていたのかは分からないけれど、少なくとも荒尾と対峙したのは金曜日の日暮れ時だった。
金曜日と土曜日の夜は、森乃やにとって一番の稼ぎ時なのに。

もしかしてわたし、丸一日以上眠っちゃってたの!?

「何を言っているの。あなたが倒れたと連絡を受けて、わたしとお父さんがどれだけ心配したと思ってるの…!流石に当日のお客さまをお断りすることは出来なかったけど、翌日のお客様でご理解いただけそうな方には、こちらからご連絡して延期にして頂いたのよ」

「ご予約を延期……」

まさか女将である母の口からそんな言葉が出るなんて。
これまで一度だって店都合で予約を変えてもらったことなんてないのに―――。

いくら何でも、社長の父は反対したんじゃないかと一瞬思ったけれど。

「本当ならお父さんも一緒に来たがっていたのだけど、どうしても昔からお世話になっている方のご予約はお断りできなくて……。それで森乃やのことはお父さんと入江さんに任せて、お母さんだけ朝一番の飛行機でこっちに来たの」

仲居頭の入江さんなら、女将の代理も十分勤まるほどのベテラン。『女将代理』としてしっかり務めてくれることは間違いない。
< 173 / 225 >

この作品をシェア

pagetop