愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
だけど、これまで母が自分の体調が悪い時に女将の仕事を休んだのを見たことがなかった。それなのに一番忙しい時に母の手を煩わせてしまうなんて。

「わたしのことなんて、放っておいてくれて良かったのに……」

「そんなっ…!放っておくなんて、そんなこと出来るはずないでしょう!?身重の娘が倒れたというのに、駆けつけない母親がどこにいますか…!森乃やには他の従業員もいるけれど、あなたの母親はわたしだけでしょう!」

「お、お母さん……?」

意外なセリフの数々にわたしが戸惑っていると、母は「ごめんなさい、大きな声を出して……」と言ったあと、声のトーンを落として続けた。

「これまであなたには母親らしいこと、何ひとつしてあげて来なかったもの……。小さい頃は手のかかる希々花(ののか)ばかりにかまけて……大きくなってからは大人しいわりにしっかりしているあなたにわたしたち親の方が甘えてしまって……」

まぶたを伏せて申し訳なさそうにそう言った母に、わたしはかける言葉を見つけられない。

「こんな親……イヤになって、黙ってイギリスに行ってしまうのも仕方がないのかもしれないわね……」

「ちがうっ…!それはちがうわ、お母さん」

「でも、」

「お母さんやお父さんのことが嫌になったんじゃないの……ただ、森乃やしか知らないまま一生が終わるのかなって思ったら…どうしてもその前に自分の好きなことをやってみたくなって……」

「そうだったの……黙っていなくなったから森乃やもわたしたちのことも嫌になったんだとばかり……」
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