愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
どれくらいそうしていたのだろう。ふと目の前が陰った。
―――おかしいな、雨が降っているのに影が出来るなんて。
感じた違和感を確かめようと顔を上げようとした時。
「櫛風沐雨が趣味なのか?」
急に聞こえた低い声に驚いて、顔を上げたわたしは更に驚いた。すぐ目の前に黒髪の男性が立っていたのだ。
くっきりとした二重まぶたに縁取られた切れ長の瞳。
スッと通った鼻筋。
上下の厚みが均一で形の良い唇。
そのどれもが、小さくすっきりとした輪郭の中に黄金バランスで配置されている。
年齢は二十代後半から三十歳くらいだろうか。
前髪を後ろに流したビジネススタイルで、真横に伸びた眉が整った顔立ちに精悍さを加えていた。
どこか近寄りがたい雰囲気を漂わせる男性にわたしはたじろいだ。
「あ、のっ……」
『何か用ですか』とか『もう少し離れてください』とか―――
とにかくそんなことを言おうと思ったのに、言葉が出てこない。
ただ、持ち上げた顔の上で、雨だれがすべり落ちていく。