愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「日本人は兎角しなくていい苦労をするのが好きな人種が多いものだな」
「はい…?あの、何か……」
何が言いたいのかさっぱり分からない。
わたしに訊きたいことがあるなら、分かるように訊いて欲しい。
そう思ってもう一度口を開きかけた時。
「うわっ…!」
いきなり大きな音とすごい量の水が上から落ちてきた。突然雨が強まったのだ。
つい数秒前までポツリポツリと落ちていただけの雨粒が、今は滝となってわたしに降り注ぐ。バケツの水をひっくり返したとはこのことだ。
「か、傘っ…」
慌ててショルダーバッグに伸ばした手を、横からバシッと大きな手が掴んだ。
「走るぞ」
「えっ!」
言うなり反対の手でわたしのスーツケースを掴んだ彼が走り出した。そんな彼に引かれる形で、わたしも土砂降りの薬草園を駆け抜けることになった。