愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「それにしても派手に降られたな」
聞こえた声に顔を上げると、彼はスーツについた水滴を手で払っていた。漆黒の髪が濡れて額に張り付いている。
体にぴったりと合った濃紺のダブルスーツ。それは野暮ったさの欠片もなく、英国紳士さながらに熟れて見える。
上質な生地だからか、手で払っただけで水滴が減ったけれど、全部というわけにはいかない。
残った水気は浸み込んでしまうし髪も濡れているから、このままだと風邪を引いてしまうかも。
わたしは自分が手に持っているものを思い出した。
「これ……、良かったら」
わたしが差し出したのは大判のストール。生地は薄いけれど綿製で柔らかいし、畳めば十分タオルの代わりになる。
彼は少し躊躇ったあと、黙ってそれを受け取った。
彼の手にタオルが渡ったことを確認したわたしは、ショルダーバッグの中にあるハンカチで自分も濡れているところを拭こうと、ファスナーに手を掛けたとき。
パサリ、と頭の上に何かが乗せられた。