愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
彼が濡れた頭を拭く間、わたしは所在なく見るとはなしに外を眺めていた。
サンルームは、壁の上半分と屋根がガラス張りになっていて、外がよく見える。
けれど今は滝のように滑り落ちていく雨で、視界良好とは言い難い。ここから一歩外に出れば、間違いなくすぐに濡れネズミになれるだろう。
大好きなものがそこにあるのに、近くに行くことはおろか、手を延ばすことすら出来ない。
もう二度と、ここを訪れることは叶わないかもしれないのに────。
『寿々那。あなた、家族と森乃やを見捨てるつもりですか?』
電話越しにそう言われてからもう優に二週間は経つというのに、今もまだ耳の奥にこびりついて離れない。母の声がわたしを追ってくる。
―――そんなことっ…!わたしにとってはお父さんもお母さんも、森乃やのみんなだって大事な家族だわ。
『それならあなただって分かるはずです。森乃やを潰すわけにはいかないことを』
―――分かるけど…分かるけど、でもっ!どうしてわたしが結婚しないといけないの!?
『今の森乃やには後継者の存在が必要なのです。あなたが荒尾さんと結婚すれば、銀行から融資も受けられる。森乃やは助かるのです』
母が電話越しにわたしにしたのは、『森乃やの経営破綻を救う術』だった。