愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
最後の思い出にと訪れたお気に入りの場所―――にもかかわらず、最後の最後でこの悪天候。
もしかしたら「未練など断ち切って早く国に帰ってしまえ」と神様が言っているのかも。そんなふうに突き放された気持ちにすらなってくる。
突如、すべてを振り切って、雨の庭に飛び出したい衝動に襲われた。
―――ずぶ濡れになろうとかまうもんか。
そう思って、ドアの方へ体を向けた時、不意に声をかけられた。
「ずいぶん色々なハーブがあるんだな」
突然聞こえた言葉に勢いよく顔を向ける。声の主は、サンルームの奥の方に居てもよく見えた。背が高いからだろう。彼は花壇に並べられた鉢植えをしげしげと眺めている。
「花が咲いているのも多いな。白い花のこれは……カモミールか」
「―――ちがいます。それは『greater stitchwort』。和名だと『アワユキハコベ』です」
答えるつもりなんて一切なかったのに、考える前に口が勝手に動いていたのだ。
「カモミールは並木の手前に見えるあれです」
サンルームの外を指さしたけれど、雨で擦りガラスのようになっているせいで見えづらかったよう。その人は首を傾げた。