愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「よほどハーブが好きなんだな」
ひとしきり話を終えて息をついたタイミングでそう言われて、やっと自分が喋り過ぎたことに気が付いてハッとなった。ああ、またやってしまった。
普段は初対面の人――特に年頃の異性とそんなに会話が弾むことはないのだけれど、好きなこととなると別。突然饒舌になるせいか、異性に限らず同性にまで引かれることが多い。それに気付いてからは気を付けていたのに―――。
「ごめんなさい、つまらないことをペラペラと……」
「いや、つまらないなんてことはない。自分が知らないことを知るのは、至極愉しいものだ」
「そう、ですか…?」
「ああ」
嫌がられたり呆れられたりしていなくて良かった。そう安堵しながらホッとつきかけた息は、彼の言葉で止まった。
「好きなものに情熱をかけられるのは素晴らしいことだが、だからと言って、ハーブそのものになろうとするのはどうだろうか」
「え?」
「あまりにもずっとあのベンチに座っているから、根でも生やそうとしているように見えたのだが」
「っ……、」
さっきまで座っていたベンチは、薬草園の中の奥まった場所にあるから通りかかる人もほとんどいなかったはず。それなのに、いつのまに見られていたのだろう。
そのうえあの時の自分が思っていたことまで当てられて、二重の意味で驚いた。
「庭を眺めているのかと思えば、うつむいたまま動かない。雲行きが怪しいことにもまったく気付かない。挙句の果てに、土砂降りを浴びようとしているのだから、植物になろうとしか思えないだろう」
「そ、それは……」
「おかげでずいぶん濡れてしまった。―――まあ、天気うんぬんは別として、良い子はもう家に帰る時間じゃないのか?」
「っ……、」