愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
思いがけずカチンときた。

確かに雨に気付かなかったのはわたしに非がある。それは認める。だけど、別にわたしがずぶ濡れになろうと、あなたには何の関係もないじゃないか。
ロンドンの日没はこの時期は遅く、サマータイムということもあって、日没時刻は八時を過ぎる。だから六時を回った今もまだ、外は明るい。

―――そもそもわたしはこども(・・・)じゃない。

「あなたには関係ないじゃないですかっ……ほっといてください」

「放っておけない、と言ったら?」

「っ…、なんで………」

まったくもって意味が分からない。
初対面のわたしに、どうしてそんなことを言うのだろう。同じ日本人だから?それとも何か裏がある?

わたしの訝しげな様子に気付いたのか、その人は軽く口の端を上げると「ふっ」と吐くように笑った。

「日本には『袖振り合うも他生の縁』という言葉があることを知らないのか?」

「知っています、それくらい」

「じゃあ分かるな。人と人の出会いは一期一会。ここで逢ったのも何かの縁だということ。それともなんだ?おまえは俺が、ずぶ濡れになった若い女を放っておくような、非道な男に見えるのか?」

「そんなことは言っていません!」

「じゃあ言えばいい。おまえは何に怒っている」

『ああ言えばこう言う』というのがピッタリな態度に、わたしはとうとう言い返すことを諦めた。一度口から息を「はぁっ」と吐き出してから、改めて口を開く。

「……二十五です」

低い声で短くそう言うと、彼は「は?」と目を見張った。
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