愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「ちゃんと成人している大人ですし、ちゃんと名前もあります!長寿の『寿』にノマ字点で『すず』、那覇の『那』で寿々那です」

「なるほど……俺はショウ。歳は三十四だ」

「ショウ……さん?」

「ああ。吉祥の『祥』」

「祥、さん……。なんだか、お互いにめでたい名前ですね」

「俺の場合は元旦に生まれたという分かりやすい理由だな」

「えっ!……なるほどそれで。実は私も松の内で、」

「一月七日か?」

言いかけた途中で即答されて、「……分かりますよね、やっぱり」と項垂れる。
いくら何でも七草粥の日に生まれたからって、『すずな』という名前にしなくてもいいのに。
それって結局(かぶ)のことだと知った時には、子ども心にショックだったことを今も覚えている。

そんなお互いの名前のことを話しているうちに、いつのまにか怒りが鎮まっていた。
わたしは一度「ふぅ~っ」と長い溜め息をついてから口を開いた。

「わたし……全然『良い子』なんかじゃありません」

藪から棒にそう切り出した。頬に視線を感じるけれど、わたしはそちらを見ずに話を続ける。

「帰れと言われても帰りたくないんです、家に」

「帰りたくない?」

「はい」

きっぱりとそう言って頷くと、祥さんは黙った。きっと呆れているのだろう。幼児か反抗期真っ只中でもあるまいし、いい歳をした人間が『家に帰りたくない』だなんて。
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