愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「本当はイギリスでハーブの仕事を続けたかったのですが、やむを得ず帰国することになって」

「………」

「日本に帰るしかないと分かっていても帰りたくないとグズグズしていたところに、祥さんから『帰る時間だ』と言われて……それで腹を立てたんです。完全なる八つ当たりでした。……ごめんなさい」

「これじゃあこどもと変わりませんよね」と自嘲気味に言うと、短く「いや」とだけ返ってきた。

いくら『一期一会』だからと言って、通りすがりの女に八つ当たりされるなんて、彼にとったら災難以外の何ものでもない。

わたしは努めて明るい声で言った。

「あ~あ、せめて一回くらいデートでもしとけば良かったかなぁ」

「デート?」

「はい。デートなんて一度もしたことないので」

せっかくロンドンに居たのだから、人生の記念に一度くらいはしておくべきだったと、今さらながらに思う。

「一度もか?」

敢えてそこを強調して訊かれると居た堪れなくなるけれど、嘘をついても仕方ないので、「はい。生まれてから一度もです」と胸を張って答えた。

すると、予想以上に驚いた顔をされた。そんな顔されたら、『デートはおろか、実は誰かを好きになったことすらありません』―――だなんて、ちょっと口に出せそうにない。

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