愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
そう。わたしは『恋』というものを知らない。

だけど、今さらそれを知って、何になるというのだろう。

知ったところでこの政略結婚がなくなるわけじゃない。叶うことなど永遠にない恋を知るくらいなら、(はな)から知らないままの方がいい。

そう考える一方で―――。

このまま自分は誰にときめくこともなく、(それ)を知らずに一生を終えるのだろう。蕾のまま枯れてしまう花のように。

そのことがひどくせつないことに思えて、胸が軋んだ。


「恋人はいないのか?」

確認するように問われて、恥ずかしながら頷く。ここまで話したのだから見栄を張っての仕方ない。「いたことは一度もありません」と胸を張って言うと、彼は黙りこんでしまった。

(この年になって交際もデートすらしたことないなんて、やっぱり変なんだ……)

自分がいかに世間とズレているのかを思い知って、恥ずかしいよりも居た堪れない。

中高一貫の女子高に通っていたわたしは、同年代の異性と話すのが苦手だ。
世代が違う相手なら全然そんなことはない。それは多分、小さな時から実家の料亭を手伝ってきたせいだろう。
小学校高学年にはもう、裏方の仕事の大体は手伝えるようになっていて、高校生になった頃からは仲居として表に出て接客もするようになった。

【森乃や】は『一見(いちげん)さんお断り』で、敷居の高い料亭だ。なので当然、お客様のほとんどがある程度上の年代の方。たまに常連のお客様のご紹介で、お若い方も来られるのだけれど、高校生のわたしから見たら十二分に年上。自分と近い年の方は居なかった。

結局、同年代の異性とまともに接する機会が増えたのは、大学に入ってからだった。

けれど―――。
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