愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「どういうこと、とは?」
「そ、それは……なんでここにいるのかとか、どうしてあんなことをとか、ここはどこかとかっ!」
「『とか』が多いな」
「っ、……もうっ、真剣に訊いてるのにっ!揶揄わないでください!」
隣に身を乗り出すようにして、目を怒らせながらそう言ったわたしに、祥さんは「くくっ」と笑いを噛み殺す。
「祥さん……」
こっちはパニックすぎてショートを今にも起こしそうな頭を必死に使っているというのに、その原因を作った張本人が、一人で楽しげにしているなんてあんまりじゃないかな。
じろりと睨みながら低い声で呼んだのに、彼はわたしの方を見るともう一度同じように笑った。
「祥さんっ!」
「……悪い、揶揄ったわけじゃない」
「………」
『信じられません』という言葉をめいっぱい込めた視線を送ると、彼は『降参』というように両手を上げた。
「ここはホテルKAGETSU博多」
「KAGETSU博多?それって……」
確か人気の高級リゾートホテルだったはず。
大手ホテルチェーン【香月リゾート】が全国で展開しているホテルで、九州内でも『一度は泊まってみたい憧れのホテル』として確固たる地位を築いている。
実際、オープン当時大学生だったわたしの周りでも、『あんな素敵なホテルに一度くらい泊まってみたい』と噂になっていたし、森乃やのお客様から【ホテルKAGETSU博多】にご宿泊の時の話も耳にしたこともある。
『訪れた人に上質なひとときを』というコンセプトはその通りで、都心にいながらリゾート気分を味わえるというラグジュアリーな宿泊施設だそうだ。
『都会のオアシス』と謳われるだけあって、博多駅がすぐ目の前と言う立地の良さも人気の理由のひとつなのだろう。
ということは、中州にある【森乃や】から目と鼻の先。
そんなことはもちろん分かっていた。車に乗っていたのはものの数分だったのだ。さすがに生まれ育った土地なのだから、車がどこを走っているのかなんて、窓の外を見なくても大体分かるというもの。
「どうして………」
そう呟いたものの、それに続く言葉が出てこなかった。