愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「気に入らないな」

「え、」

それ(・・)を聞き直すよりも早く、わたしは肩を押され背中から後ろに倒れ込んだ。

「きゃっ、」

思わず悲鳴を上げたけれど、予想した衝撃はどこにもない。それもそうだ、背中を優しく受け止めたのは最高級のマットレスなのだから。

ここにきて、わたしはやっと思い出した。

自分が座っていた場所、連れて来られたところ。
それはホテルの一室。しかもスイートルームで、さらにその中のベッドルームのベッドの上。

祥さんはベッドに仰向けになったわたしの腰にまたがるようにして、わたしを真上から見下ろしている。
しっとりと濡れた烏羽(からすば)色の瞳。そこにある熱に見覚えがあった。

それは一週間前のあの夜に、わたしを溶かした情欲の(ともしび)

息を呑んで見入っていると、ふいに不敵な笑みを浮かべた彼がわたしの着物に手を掛けた。

「……わっ、……あのっ、」

我に返ったわたしが止める間もなく、彼は掛下(かけした)(白無垢の下の着物)の装具を次々と手早く取り払っていく。懐剣も末広(扇子)も筥迫(はこせこ)も、みんな。

「他の男のための装いなど、さっさと外してしまえ」

「っ、……別に、」

わたしだって好きで花嫁衣裳(こんなもの)を着ていたわけじゃないのに。

そう反論しようとしたけれど、彼の「他の男に嫁ぐための衣装だろうが」というセリフの方が早かった。
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