愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
『ひどくしてください』

わたしがそう言ったにもかかわらず、彼はこれ以上ないくらいに優しくわたしの初めてを奪った。他に経験がないわたしにすら、あれが『極上の一夜』だったと分かるほど。

「……祥さんのうそつき……」

あの朝。幾度も高みに昇らされ、最後は気を失うように落ちた眠りから目覚めた夜明け前。
彼の寝顔を見ながら心で呟いたのと同じことを、今度は本人に向かって口にする。

「俺はおまえに嘘などついていないが」

「うそ。ひどくしてくれるって言ったくせに……」

「ああ、そのことか」

むぅっとむくれて睨むと、彼は目を数回(しばた)かせたあと、口の端を持ち上げ、不敵に微笑んだ。

「十分ひどくしたつもりだが?」

「ど、どこがっ」

「嫌がる寿々那を明るいところですみずみまで漏らさず見た」

「なっ…!だからそれは何度もやめてって、」

「『やめて』と言われてやめていたんじゃ、ひどく(・・・)したことにはならないだろうが」

「うぅっ……、それはそうかもしれないけど……」

「それに、泣いて頼まれても聞いてやらなかったしな」

「っ、」

わたしが何を『泣いて頼んだ』かなんて、思い出しただけで顔から火が出るどころかそのまま炭になりそう。

真っ赤になって唇を噛みしめているわたしに、彼はとどめを刺すように言った。

「挙句の果てに、初めてのおまえを抱き潰した。これを『ひどく』と言わずに何と言うんだ?」
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