愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「覚悟は出来たか?」
しばらくしてやっとわたしの口を解放した祥さんが、そう言った。
肩で息をつきながら足りない酸素を肺に送り込んでいる真っ最中のわたしは、すぐにはその意味を理解できない。
すると彼は繋いだままのわたしの手を持ち上げ、その甲に自分の唇を押し当てたまま瞳を細めた。
その溢れんばかりの色香に、わたしの心臓が一気に跳ね上がる。
「えっと……なんの、」
「決まっている。俺に奪われる覚悟だ」
「っ、」
なんて人だろう。あんなタイミングであんなふうにわたしを強引に連れ出したくせに、今さら『覚悟があるのか』と訊くなんて。
「……わたしに選択肢はあるんですか?」
「ないな」
即答してから「くくっ」と笑った彼に、わたしは思わず口を尖らせた。
「もうっ…!覚悟もなにも!わたし、あなたのこと何も知らないんですよ?知っているのはあなたが『祥さん』ということと、年が三十四ということだけです」
「ん…?そうだったか?」
「そうですっ!」
すぐそこにある切れ長の瞳をぐっと睨みつける。