愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
ロンドンの時は、もう二度と会うことはないだろう思っていた。だから呼び名さえあればいい。むしろ、お互いの素性なんて知らない方が良かった。

とはいえ、あの時。わたしは、彼に自分の身の上話を結構細かに話したはず。どうしても彼に処女を貰ってもらわなければ、と必死だったせいだ。

あの状況の再来かと思うような今の体勢に、再び居た堪れなくなってきた。何度思い返しても、あの時の自分には驚愕と羞恥しかない。

視線を逸らしそうになるのを唇を噛んで堪え、眉間をきつく寄せた時。

かつき(・・・)だ」

「え?」

「俺の名字」

「かつき……さん?」

「ああ」

「かつきさん……かつき……」

どこかで聞いたことのある名前に、口の中でそれを呟いてみる。
いったいいつ耳にしたのだろう。

何度かくり返し唱えているうちに、口が勝手に動いた。

「かつき…リゾート……」

わたしがそう言った瞬間、彼の口の端がきゅっと持ち上がった。まるで「正解」とでも言うように。

「それって……」

まさかね?

そう思いながらも、思いついたそのことを彼に問おうとした、ちょうどその瞬間。

―――ピンポーン。

呼び鈴が鳴った。


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