愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
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【ホテルKAGETSU博多】の最上階。クラブフロアのラウンジの上。

『緑化』というよりも『森林化』という方がしっくりくるような屋上テラスで、わたしは空を見上げて「ほうっ」と大きく息を吐いた。

「ジャグジーというより、泡が出るプールだよね……これ」

思わず声に出した独り言を、ぶくぶくという音が隠してくれる。

だけど別にジャグジーが止まっていても何の問題もない。大人が優に十人は入れそうなほど大きなジャグジーを目下独占中。ここに居るのはわたしだけなのだ。

最初はいくら水着姿とはいえ、周りの高いビルから見下ろされるのではと気になったのだけれど、いったんジャグジーに入ってみると、それほど気にならなかった。まわりを囲む樹木が目隠しの役目を果たしてくれているからだ。

見上げる空に星はあまり見えないけれど、代わりにネオンが(またた)いている。
まるで高層ビルの谷間に湧きだしたオアシスのようなこのスパ・ジャグジーを、クラブフロアに滞在中の客なら一日一時間を無料で貸し切れるという。

どうしてそんなラグジュアリーなサービスを、わたしが受けられているのか。

答えは簡単。

香月祥(かつき しょう)。

彼は、このホテルを経営している【香月リゾート】の社長だったのだ。
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