愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「いったい何がどうなっているの……?」

何度考えてもよく分からない。

分かっているのは、ロンドンで出逢った『祥さん』が日本屈指のホテル王だったこと。
そしてその彼の妻に、わたしはなった。―――ということだけ。

二晩経っても実感なんて何ひとつ湧かないまま、今朝も『仕事に行ってくる』という彼をホテルの部屋から見送った。
ひとり残されたわたしは、大人しく【KAGETSU博多】で彼の帰りを待っている。

別に祥さんからは「ホテルの外に出るな」とも、「実家に帰るな」とも言われていない。
わたし自身がここから出る気持ちにならないだけなのだ。

結婚式直前に【森乃や】の娘が逃げ出したことは、きっとあの界隈ではすでに噂になっているはず。

一人で外を歩いていて知り合いにあったらどうしよう、もし荒尾にあったら―――。

誰かに何を言われても仕方のないことをした。
特に当事者である荒尾にはきちんと謝罪をしなければと分かっているけれど、今はまだそれに一人で立ち向かう勇気が出ない。意気地なしの自分が恨めしい。

だけど、今はひとまず母の言葉に甘えることにした。


実は祥さんに婚姻届けを見せられてすぐ、わたしは母に電話をかけたのだ。

自分がしでかしたことを母から厳しく非難されるだろうと相当覚悟していた。

だけど―――。
< 66 / 225 >

この作品をシェア

pagetop