愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
いったい何がどうして、そんなにすんなりと了承してくれたのだろう。
荒尾とわたしの結婚は、森乃やの再建が掛かった事業(・・)だったはずなのに―――。

わたしが跡を継がなくても森乃やは大丈夫なのだろうか。
もしかしたら、祥さんが何か助け舟を出してくれたの?

彼は、日本のみならず海外にまで手を広げているリゾートホテルチェーンの経営者なのだ。料亭ひとつをどうこうすることなんてきっと容易い。

そのこととは別に気になっていることもある。
だからわたしは、とにかく祥さんに疑問を全部ぶつけようと決めたのだ。

それなのに―――。

訊こうとするたびなぜか、どこからともなく邪魔が入る。
部屋の呼び鈴から始まり、レストランでの給仕(サーブ)、従業員からの声かけ。

中でも一番多かったのは、彼のスマホへの電話だった。

彼がわたしの前で通話を続けることはないけれど、言葉の端々から仕事の話なのだと察せられる。仕事の邪魔をしてまで、自分都合でもやもや(・・・・)をぶつけるわけにはいかない。

訊きそびれた要因はそれだけではなかったのだけど、とにかく気が付いたらあっという間に二日間経っていた、ということだ。

その間ずっと【KAGETSU博多】の中で過ごしているけれど、何の不便もない―――とより、快適すぎる。

食事はルームサービスでもいいし、中に入っているレストランに行ってもいい。
泊まっているのがエグゼクティブスイートなので、クラブフロアのラウンジやプールフィットネスは好きな時に使うことが出来る。

洋服一式や化粧品など身の回りに必要なものは、最初に祥さんがくれた紙袋の中に揃っていたけれど、足りないものがあればクラブフロア専属のコンシェルジュに頼めばいいと言われた。
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