愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
だからふと、プールやジャグジーに出入りする時用のビーチサンダルがあればいいなぁと思い、暇つぶしがてらフロントに立ち寄った時のこと。

わたしが声をかけると、『内線でお呼びくださればお持ちいたしましたのに、奥様』と言われて、『奥様』という訊き慣れない言葉やフロントホテリエの恐縮しきった顔に居た堪れなくなって、『えっと……さ、散歩のついででしたのでっ…!』と意味の分からない言い訳をして、逃げるようにその場を後にした。

けれど結局、そのあとすぐにクラブフロア専属のコンシェルジュが直接部屋まで来てくれて、かえって手間をかけてしまったと、受け取ったサンダルを部屋の中に戻ってから眺めながら反省した。

皮製の上品なデザインだなぁ。さすが人気の高級リゾートホテルは貸出品も素敵だなぁ―――などと思いながら、ふとソール部分のロゴを見た。

知らない人がいないくらい有名なハイブランドだった。

恐る恐る内線をかけ『もっと手軽なものをお借りしたいのですが……』と言うと、『申し訳ございません。サンダルのお貸出しは行っておりませんで……』と至極申し訳なさそうな声が返って来た。

『えっ!』と驚くわたしに、彼女は『そちらは、香月社長…いえ、ご主人様からのご指示でご用意いたしました』と言う。さっきよりもさらに大きな声で『ええっ!?』と驚く。

『もしお気に召さなければ別のものを、』

『いっ、いえっ、十分ですありがとうございましたっ!』

とまたしても逃げるように会話を終わらせたのだった。

< 69 / 225 >

この作品をシェア

pagetop