愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
荒尾と結婚しなくて済むことばかりに気を取られ、勢いのまま彼との婚姻届けを出した。

気が付いたら外堀だけが『香月祥』の妻として固められていて、わたしとしては狐につままれた気分。もしくは、タヌキに化かされている状態。

ビーチチェアの横に揃えられたサンダルを食い入るように見つめる。

(あのサンダルもこの水着も……目が覚めたら葉っぱに戻ってたり……)

「いやいやっ!ない、ないっ!」

今夜こそ、きちんと全部納得できるまで説明してもらわないと。

そう思いながら、わたしはお湯の中でこぶしを握り締めた。いつまでも狐につままれたままではいられない。

「今日こそちゃんと訊かなきゃ」

祥さんがいつ帰ってくるかは分からない。忙しいのは当たり前だろう。彼はこんなに大きなリゾートホテルの経営者なのだから。

だけど今日こそ、知りたいことに答えを貰うまでどんな妨害(・・)にも負けない。そう心に誓う。

この二日間、ただでさえ込み入った話が出来るほどのんびりと過ごしているわけじゃないのに、二人きりになると彼は―――。

「もうっ……絶対わざとだってば……」

思い出しただけで顔が熱くなる。赤面した顔を両手で覆って、「祥さんめ……」と呟いた時。

「どうかしたのか?」

「ひゃっ、」

突然降ってきた声にビクリと肩を跳ね上がった。
わたしが振り返るのと、彼の腕がこちらに伸びたのはほぼ同時。

「きゃっ…!」

おもむろに脇に差し込まれ抱え上げられて、豪快にザバッっとお湯から引き上げられた。
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