愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「しょ、しょっ、」

「大丈夫か?湯あたりしたのか!?」

オーダーメイドのスーツが濡れることも厭わず、彼はわたしを離さずに顔をのぞき込んでくる。その瞳には心配が滲んでいた。

「だ、大丈夫、です……」

「本当に?」

「はい……」

おずおずと返事をすると、彼は明らかにほっと眉間をゆるめた。

「じゃあいったいどうしたんだ。長風呂でふやけたか?」

「ふやけっ……たりしていません………」

「そうか?」

「はい。だから、あの……もう下ろしてくださいっ」

「ん?……ああ」

「ああって…!」

そう言ったにもかかわらず、彼はわたしを抱き上げたまま。わたしについている水気が、みるみるスーツの生地に吸い込まれて行く。
艶やかな黒髪を軽く後ろに流した彼に、間近にのぞき込まれて冷めかけていた頬が熱くなった。

「顔が赤い。やっぱり湯あたりを、」

「ちがいますっ」

「じゃあどうした」

「どうしたって……」

「両手で顔を覆ってうつむいていたから、具合でも悪くなったと思ったのだが。何か困ったことでもあったのか?」

「それは……」

返事に窮したわたしに、彼は「困ったことや不便なことあれば、いつでもコンシェルジュに言ったらいい」と言う。
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