愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
コンシェルジュに訊いて分かることなら、いっそそうしたい。

黙っていると、祥さんが顔を覗き込んできた。

「もちろん、俺がいる時は俺に言えばいい」

「祥さんに……」

そうだ、今がそのチャンスなのだ。ここなら邪魔も入らないはず。なんて言ったって『貸し切り』なのだから。

「あのっ」

「なんだ」

超近距離でじっと見つめられ、じわりと頬が熱くなる。
耐え切れず視線をさ迷わせながら、何を訊こうとしたんだっけ、なんてうっかり考えていると、頬に温かいものが押し当てられた。

「っ……、しょ、祥さんっ!」

「ん?」

いやいや。『ん?』じゃありませんよね…!?

そう言いたいのに口はハクハクと空振るばかり。

「わたしっ、祥さんに訊きたいことが色々あって……」

「うん」

相槌を打ちながら、今度はわたしの鼻の頭にキスを落としてくる。そのまま顔のあちこちで軽やかな音を立てられて、わたしは慌てた。

(こ、これよこれっ…!)

わたしが『今だ!』と意気込んで訊ねようとすると必ず、彼はわたしに触れて(・・・)くる。

撫でたりキスをしたり、―――それ以上のことも。

強引なくせに甘やかで、驚くほど巧みなそれ(・・)に、抵抗もむなしく毎回流されてしまう。
巣から(かえ)ったばかりの雛鳥が、百戦錬磨の鷹に叶うわけない。

この二日間、肝心なことを彼に訊けなかった残りの半分は、彼の意地悪(・・・)のせいなのだ。
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