愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
あご下の毛先を指に絡めて弄ばれ、くすぐったさから身をよじろうとした時、ビーチチェアが小さく音を立てた。
顔を上げると、いつのまにかすぐ横に整った顔。
ドキッと胸が跳ねるのと、その唇が開くのは同時で。
「だがもし」
耳殻をかすめるように吹き込まれるバリトンボイス。
背中がぞくりと痺れて身を竦めた瞬間、髪を弄んでいた手が頬を包んだ。
「この結婚をおまえにとやかく言うやつがいたら、躊躇わず俺に言え。おまえのことは俺が守る」
それだけ言うと彼は、わたしの返事など待たずに唇を重ねてきた。
「っ、」
息を呑んで開いた唇の間から、すぐに舌が忍び込んで来た。
ここが外だと思い出して、慌てて彼を止めようとしたけれど、そんなわたしの意向はお構いなし。
咥内で蠢く舌が立てる水音が耳の奥に直接届いて、ジャグジーの音が遠くなる。
誰が見ているのかも分からないこんな場所で、こんな淫らなキスをするなんて。
何度も抗議の声を上げたけれど、「んん~っ!」という音にしかならなくて、彼の胸を押し返そうとしていた両手は、自分でも気が付かないうちにスーツの背中を握っていた。
しばらくしてゆっくりと離された唇に、酸欠で息を弾ませながらほっとした。
―――のは束の間で。
「きゃあっ!」
はらりと首から垂れ落ちてきた紐に、咄嗟に胸もとを抑える。祥さんがビキニの紐を解いたのだ。
「ちょっ……、なにをっ、」
「貸し切り制スパジャグジーは、なかなか出来た企画だ」
「は?」
突然ビキニの紐を解いたかと思いきや、今度は仕事の話!?
こんなところで何をするの!と怒ろうと思ったのに、出鼻をくじかれた。
「良かったな、寿々那。水着姿を他のヤツに見られなくて」
「それはまあ……」
「俺が居ない時にはこの水着は禁止」
「…………」
こんな貧祖なビキニ姿なんて、見せられる方が気の毒だとでも言いたいのだろうか。
グラマラスとはほど遠い幼児体形なのは自分でも分かっているけれど、中身を知っている彼に眉をひそめられると、やっぱりそうかとさすがにへこみかける。