愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
荒尾が言う通り、ひとつ違いの妹は大学進学と同時に実家を出て行き、そのまま関西で就職。そしてつい先日、付き合っている人との間に赤ちゃんが出来て、その人と結婚することになった。
わたしがそれを知ったのは、奇しくも母からの『帰郷命令』の電話でだった。

「そのうえ、実の姉の大事な結婚式だというのに帰って来もしない」

「それは…!……妹は今、妊娠したばかりなんです。つわりもあるし、無理は出来ないから仕方ないって……」

いくら新幹線一本で帰って来れるとはいえ、安定期に入る前の妊婦を何時間も移動させるのはリスクが高い。妹からはきちんと『ごめんね、お姉ちゃん』と断りを貰っている。

「それに、たとえそうじゃなくても、こんなに急なお式に参加しろと言われても普通困るでしょう……」

「確かにそうですね。ですが、我々が一秒でも早く結婚はしないと森乃やが手遅れに、」

「分かっています…!」

分かっているからこそ、今わたしはここにいる。

「まあ、どの道。妹さんは森乃やのことなんてどうでもいいのでしょう。森乃や(ここ)にはまったく寄り付きませんしね。森乃やのためにロンドンから戻ってきたあなたとは、姉妹でも大違いだ」

「………」

「森乃やに興味のない妹さんが継ぐよりも、姉のあなたがここを継がれた方が森乃やのためです。森乃やの経営不振は、後継者有無の先行き不安のせいだと言われていますし」

「それは………」

「ですが、それも今日まで。私とあなたが結婚することで、銀行からの融資も受けられるようになる。森乃や存続の危機から脱却できるでしょう」

羽織っている打掛が、ずしりと重みを増した。

白無垢はわたしのとっての死装束(しにしょうぞく)
今から行うのは、花嫁行列ではなく葬送式。
婚姻は、囚人となるわたしにはめられる(かせ)となる。

この重さは、果たして【森乃や】の何分の一なのだろう―――。

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