悪いコの味方!
椅子を用意するとどかっと豪快に座られた。ちょっと驚きつつ、アイシングバッグを用意して彼に差し出す。受け取ってもらえず戸惑っていると頬を傾けられた。
え、わたしがするの?
近づかないとできない。少し心臓が震えたのを感じながら頰にそれをくっつけると「冷たっ」と肩をすぼめる。
かわいい仕草。そりゃ冷たいに決まっているのに。
「あの…痛かった…?」
「べつに。慣れてるよ」
「ビンタなんてふつうに生きてたらあまりされないことだと思う…」
「ふつうって何?」
ぶっきらぼうな話し方。
うわさで聞く真篠くんってもっと愛想がよくて、いつも笑ってて、優しくしてくれて、それがかっこいいみたいなのにぜんぜん違う気がする。
「ふつうって…ふつうだよ」
よく考えたらわからないかも。
「ならこれがおれのふつう」
そうなんだ。
それは、とてもすごい。感動して思わず片手で彼の手を掴んだ。びっくりしている。
「すごかったね」
「え、何が?」
「キスなんて初めて見た。ドラマのキスシーンみたいだった!あれがふつうなんてすごいよ…ねえキスってどんな感じ?」
「…え、まさかその身なりでしたことないの?」
「ない!恋したことないもの。身なりって…派手な自覚はあるけどだから彼氏がいるとか経験がアルナシとか関係ないよね。ねえキスが気持ちいいって本当?」
きみならたくさん知っているんでしょ?
さっきの女の子、目がとろーんってしてた。うわさ話をしていた女の子たちは、なんだかんだできみを好きだった。
教えてほしい。
恋って、何?
「どうだろうね。試してみる?」
試す?
「恋を?誰と?」
「おれと、キスとか」